2013.10.31
アルミニウム鋳物の矯正のタイミングについて
アルミニウムの鋳物を溶体化処理した場合に、変形が起こる場合があります。
これはやってみないとわからない場合もあります。また、製品が完成したときの許容寸法内であれば変形しても問題無いというケースもあります。
矯正を行うタイミングは、生材(F材)のときに行う方法と、溶体化処理で急冷した直後に行う方法が一般的です。弊社では、主に後者の方法で行います。
溶体化処理を行った直後は、硬さがまだ若干柔らかめなので、そのタイミングで矯正を行うとスムーズです。ハンマーで叩いたり、自社で製作した油圧の矯正用の機械を使用します。
だいたいですが、溶体化処理後に4時間以内であれば比較的やりやすい状態になっています。それ以上の時間が経過するとだんだんと硬くなっていき、場合によっては割れてしまうこともあります。したがって、なるべく矯正は溶体化処理後4時間以内を目処にしています。
矯正を行った後は、普通に焼戻し(人工時効硬化処理)を行います。
溶体化処理を行わないT5処理での矯正の場合には、熱処理を行う前にハンマー等で叩いて寸法を出してからの熱処理になります。
矯正に関しては、「矯正基準書」を作成してお客様に確認をいただいてからの作業となります。また、矯正の作業の立会いをしたいというご希望がある場合には、それもお受けしております。
その他、矯正に関しての御質問等がございましたら、お気軽にお問い合わせをいただければ幸いです。
2013.10.24
アルミニウム熱処理の「特殊工程」について
熱処理は、「特殊工程」と呼ばれることがあります。
「結果として得られる製品(3.4.2)の適合(3.6.1)が、容易に又は経済的に検証できないプロセスは、”特殊工程”(special process)と呼ばれることが多い。」(JIS Q 9000の3.4.1プロセスの注記3より)
つまり、熱処理も適合についての検証が難しいために「特殊工程」として扱われる場合がほとんどです。
外見上の変化については、溶体化処理を行ったものは表面の色調に変化が見られますが、硬さが規格を満たしているかどうかは判断できません。しいて言えば、「熱は加えられたようだ。」という判断はできるかもしれません。
焼鈍(焼きなまし)も、表面に油がついているものは熱処理後に油が焼けた後がつきますが、上記と同様です。
そしてT5処理に関しては熱処理後も色の変化が無いので外観からは判断できません。
通常は、炉内の温度分布を調べてから製品を抜き取って検査を行い、その製品が合格であれば他の場所の製品も合格だと推測されますので、その方法で合否判断を行います。
検査については、硬さ測定や引張試験などの各種試験を行って検証します。これは、初期の数ロットの場合もありますし、毎回必ず行う場合もあります。それについては、お客様と相談をさせていただきながら決定していますが、通常は弊社の判断でアドバイスをさせていただいております。
「特殊工程」は、「適合」についてどのように判断するかの妥当性についての取り決めが大事ですので、それについてもご相談させていただければと思います。
2013.10.17
昇温時間について
先月より、アルミニウムを高温で熱処理すると発生することがある膨れ(ふくれ:ブリスタ)の対策として、「昇温時間を短くしたい」というご依頼がありました。希望は1時間以内です。
通常は1トン近くを1度に熱処理していますので、設定温度を上げれば雰囲気(大気)の温度は約500℃程度まで上げることは可能ですが、製品そのものの温度を上げるのは難しいため、処理量を大幅に減らして実験を行いました。
3段のバスケットに分散させ、炉の中の空気の循環を良くするために配置を工夫し、9点の実体(実態)温度を測定しました。実体温度測定とは、製品に熱電対(ねつでんつい:温度センサー)を取り付けて、製品の実際の温度を測定することです。
その結果は、温度の上昇が場所によって異なり、100℃以上の差が発生しておりました。その後、バスケットへの詰め方を変えながら実験を行っておりますが、全部が同じような温度で上昇する方法は、やはり少量にした方が良いという結論になります。
硬さという点では、溶体化処理で過飽和固溶体にすることが目的ですので、昇温の時間は関係ありません。例えば、水は零度になると凍りますが、氷を作るときに冷却スピードは関係なく零度になれば凍ります。不純物の点などで冷却スピードによって変化はありますが、氷を作るという点では零度になるまでの時間は問題になりません。
昇温時間は、例えば1トンのものを熱するときには、どうしても上・下や外・中で温度の上昇の程度が変わります。それなので、1部は溶体化処理の温度に達し、一部はそれよりも100℃ぐらい低いということも起こりえます。
そのため、1回のアルミ熱処理を行うときに製品の均一化を目指すのであれば、ヒーターの出力をやや弱めにして、ゆっくりと加熱していくことでバラツキが軽減されます。
熱いお風呂に入った時に、皮膚の表面だけが先に熱くなることと似ています。ぬるいお湯に入ってからお湯を熱くしていけば均一に暖かくなっていきます。
ただ、やはり「短時間で昇温したい」というご要望があれば、できる限り達成できるようにお手伝いをさせていただきたいと考えております。
熱処理に関するご要望等、ございましたらお気軽にお問い合わせをいただければ幸いです。
2013.10.10
焼鈍の後の焼入れは可能か?
先日、お問い合わせがありました。
「アルミニウムの熱処理で、T4の後に焼鈍を行って柔らかくなったものを、再びT4をやると硬さは増すか?」
というものです。
T4は溶体化処理後に自然時効したものです。
例として2014材の硬さを比較するとブリネル硬さ(HB W 10/500)で、
2014
T4 HB105
T6 HB135
O HB45(焼鈍、焼きなまし)
T4処理を行った後に焼鈍をすると柔らかくなります。そしてその後に再びT4を行うと硬さは上記のようになります。場合によっては少し柔らかめの傾向になります。
通常、溶体化処理は3回ぐらいまでは可能と言われていますが、2回目3回目は硬さが出にくく、また表面の色も黒っぽくなります。
できれば熱処理は1回で終わらせるほうが品質も一定になりますしコストも安くなります。しかし、色々な事情や研究、その他の理由で熱処理を繰り返す場合もありますので、ご要望がありましたがいつでもご相談いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
2013.10.03
硬さの測定数について
アルミニウムの熱処理は、製品の硬さ(硬度)が変化したかどうかも出荷検査の合否判断の対象になります。
T5処理のように硬さが変化しない場合もありますが(T5処理でも変化する場合はあります。)、T6や焼鈍などでは硬さが変化します。T6では硬さが硬くなり、焼鈍すると柔らかくなります。
熱処理を終えた製品は、その工程が問題なく行われたかどうかの判断として硬さの測定をします。通常、硬さは「引張試験」などの機械的な性質を測定する結果と相関関係がありますので、硬さを測定することである程度の品質検査が可能となります。
その硬さ測定ですが、実際に炉の中の温度分布がどのようになるかは製品のセットのやり方で少し変わってきます。そのため、熱電対(温度測定センサー)を炉の中に入れて温度分布を測定し、炉の中の様子を調べます。
そしてその結果と、各位置の硬さ測定の数値を見て、量産時の硬さ測定の抜き取り場所を決めます。
量産のときには、炉の中の温度分布が良い条件を探して決定するため、炉内のバラツキも最小限ですが、やはりその中でも1番気になる場所から製品を抜き取って硬さの測定を行います。
通常は2個を測定すれば問題はありません。場合によっては1個でも大丈夫です。決められた投入方法、温度、時間などに従えば結果は同じになりますので、1個だけでも合否判断は可能です。それでも、2個測定すると更に安全です。
お客様によっては、管理方法としてもっと硬さの測定数を増やしたいというご要望もあります。そのときには、抜き取り場所などの相談もさせていただいております。また、測定数がかなり多い場合には別途御見積をさせていただく場合もあります。
いずれにせよ、製品の要求事項については弊社がそれを満たすようにして納品いたしますので、検査については弊社からの提案をさせていただく場合もあります。
お客様と色々な打合せを行い、満足のいく熱処理をさせていただいております。
不明な点などはいつでもお問い合わせいただければ幸いです。